治水とは、河川の氾濫を抑制・制御することで洪水などの水害から人々の生活や産業を守り、同時に農業の生産性を高めるために用水路の開削や堤防の築造を行う一連の技術や政策のことである。水の流れを管理・運用することで、国土保全と水資源の有効活用(利水)を両立させる役割を担う。
解説
歴史的な文脈において、治水は統治者の支配力を示す極めて重要な事業であった。応仁の乱以降、下剋上の風潮の中で誕生した戦国大名は「富国強兵」を掲げ、経済基盤を安定させるために河川の制御に注力した。例えば、武田氏が甲斐国で築いた「信玄堤」は、急峻な河川による氾濫を防ぎ、広大な耕地を確保した画期的な事例である。こうした領国経営は、今川仮名目録や甲州法度之次第といった「分国法」による厳格な法治体制や、城下町の整備、さらには堺や博多といった自治都市の繁栄とも密接に関わっている。
地理的・科学的な側面では、河川の三作用(浸食・運搬・堆積)による地形形成と、それに伴う災害リスクの管理が重要視される。日本の河川は勾配が急で、特に日本海側では春の融雪期に増水しやすい特性がある。そのため、堤防の強化や、蛇行した河川を直線化するショートカット工事が各地で進められてきた。代表例である石狩川の直線化工事は、洪水被害の軽減とともに広大な泥炭地の開発を可能にした。これらの治水対策は、阪神工業地帯を支える淀川のように、農業・工業・水力発電といった多方面での利水を支える不可欠な環境改変としての側面を併せ持っている。
コラム
治水事業によって河川の形状が変化すると、その川の全長が変わることがある。石狩川はかつて日本で2番目に長い川であったが、直線化工事によって長さが短縮され、現在は信濃川、利根川に次ぐ日本第3位となっている。また、治水は単なる防災だけでなく、扇状地などの地形を活かした土地利用や、工業出荷額の維持、電力供給の安定化など、現代社会の経済活動を根底から支えるインフラとしての意義が非常に大きい。