すぎの原生林とは、人為的な植林ではなく、スギが自然の状態で群生している森林のことです。特に鹿児島県の屋久島に広がる森林が有名であり、樹齢千年を超える「屋久杉」が自生する貴重な生態系として、1993年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。
解説
スギは日本固有の樹木であり、古来より建築資材として重宝されてきたため、国内の多くの森林は人工林となっています。しかし、屋久島のような厳しい自然環境が残る場所では、スギが独自の進化を遂げながら自生し続けています。屋久島は「ひと月に35日雨が降る」と比喩されるほど降水量が多く、また土壌が栄養分の乏しい花崗岩であるため、スギの成長は極めて緩やかになります。
このように過酷な環境下で育つスギは、身を守るために樹脂(油分)を大量に蓄え、腐りにくく非常に緻密な木質を持つようになります。これが、一般的なスギが数百年の寿命であるのに対し、屋久杉が数千年という驚異的な長寿を誇る理由です。原生林内には、推定樹齢2000年を超える縄文杉をはじめ、弥生杉や紀元杉といった巨木が点在しており、原始的な姿を今に伝えています。
コラム
この原生林は、標高によって植物の種類がダイナミックに変化する「垂直分布」が見られる点でも学術的に高く評価されています。海沿いの亜熱帯植物から、山頂付近の亜寒帯に近い植物までが連続して観察できるのは、世界でも稀なケースです。また、かつての江戸時代には、屋久杉は年貢として納めるための「平木(屋根材)」として大量に伐採された歴史もあります。現在の豊かな原生林は、そうした開発の歴史を乗り越え、保護運動や国立公園の指定によって守り抜かれた貴重な国民的財産といえます。