灰とは、木材やわらなどの植物質が燃焼した後に残る固形物のことですが、江戸時代の日本においては、単なる燃えカスではなく、極めて価値の高い「資源」として流通していました。生活の中で発生した灰は、専門の業者によって回収され、農業や工業の現場で再利用されるという、世界的に見ても高度な循環型社会を支える重要アイテムでした。
解説
江戸時代の都市部では、調理や暖房の燃料として薪や炭が大量に消費されていました。そこから出る灰を専門に買い歩く業者は「灰買い」と呼ばれ、彼らは家庭の竈(かまど)や銭湯などから灰を買い集めて回っていました。灰は、当時の人々の生活を経済的にも支える貴重な副収入源でもあったのです。
集められた灰の主な用途は農業用の肥料でした。灰はアルカリ性を持ち、カリウムなどのミネラルを豊富に含んでいるため、土壌の酸性を中和し、作物の成長を助ける効果がありました。また、布を染める際の色の定着を助ける「媒染剤(ばいせんざい)」や、陶磁器の表面に塗る「釉薬(ゆうやく)」の原料、さらには油脂を分解する性質を利用した洗剤代わりなど、産業のあらゆる場面で無駄なく再利用されていました。
コラム
江戸時代のリサイクルシステムは灰だけにとどまりません。例えば、人間の排泄物(糞尿)も肥料として農家に売買されていましたし、壊れた鍋や提灯、傘なども専門の修理業者が直して使い続けるのが一般的でした。どうしても再利用できない最終的なゴミは、埋め立て地の造成に使われ、現在の東京の土地の一部となっています。このように、修理・売買・埋め立てという一連のプロセスを通じて、資源を徹底的に使い切る工夫がなされていました。