千葉県東部の太平洋に面した、弓状に続く広大な砂浜海岸。江戸時代に紀伊地方から伝わった地引網漁法によってイワシ漁が劇的に発展し、商品作物の栽培に不可欠な肥料である「干鰯(ほしか)」の主要な供給源として、近世農業の生産力向上と貨幣経済の浸透を支えた地域である。
解説
九十九里浜は千葉県旭市から一宮町にかけて続く、全長約66kmにおよぶ日本最大級の砂浜海岸である。歴史的には、江戸時代初期に紀伊(和歌山県)から漁民が移住し、大規模な地引網漁法を導入したことで一躍、国内有数のイワシ漁拠点となった。ここで大量に捕獲されたイワシは、食用としてだけでなく、煮て油を搾った「しめかす」や、太陽光で乾燥させた「干鰯(ほしか)」へと加工された。
これらの加工品は「金肥(かねごえ)」と呼ばれ、当時生産が急拡大していた綿花、菜種、藍といった商品作物の栽培に極めて有効な高効率肥料として全国に流通した。干鰯の購入には現金が必要であったため、農村における貨幣経済の普及を後押しすると同時に、農業生産力を飛躍的に高める要因となった。このように九十九里浜は、江戸時代の経済循環を支える重要なエネルギー・資材供給基地としての役割を果たしていたのである。