平家納経(へいけのうきょう)とは、平安時代後期の長寛2年(1164年)、平清盛をはじめとする平氏一族が、その繁栄を感謝し一門の安泰を祈願するために安芸国の厳島神社に奉納した装飾経の総称である。法華経を中心に計33巻から成り、金銀の箔や極彩色の絵画で彩られたその姿は「装飾経の最高傑作」と称されている。
解説
平家納経は、平清盛が父・忠盛の代からの信仰を継承し、一族の結束と権威を象徴するものとして制作された。内容は「法華経」30巻に「無量義経」「観普賢経」「阿弥陀経」「般若心経」各1巻、そして清盛自筆の「願文」1巻を合わせた合計33巻で構成されている。最大の特徴は、写経の料紙(紙)や軸、表紙の裏側の見返しに施された贅を尽くした装飾にある。
この制作には、当時の平氏が持っていた莫大な経済力が反映されている。清盛は武士として初めて太政大臣に就任しただけでなく、日宋貿易を積極的に推進して巨万の富を築いた。平家納経に用いられた高度な工芸技術や審美眼は、彼らが単なる武士の枠を超え、貴族社会の頂点に立つ文化的な教養を兼ね備えていたことを物語っている。当時の洗練された美的感覚が凝縮されており、現在は国宝に指定されている。
コラム
平氏一族はその後、婚姻政策や知行国の支配を通じて全盛期を迎えるが、伊豆で挙兵した源頼朝をはじめとする源氏の勢力に追い詰められていくことになる。瀬戸内海を西へと敗走し、最終的に壇ノ浦の戦いで滅亡したが、厳島神社に奉納されたこの平家納経は、かつての平一族が誇った栄華の記憶を今に伝える貴重な歴史資料となっている。